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満足度:93%存在のない子供たち 感想【ネタバレなし】

満足度:93%【ランク超】

あらすじ

わずか12歳で、裁判を起こしたゼイン。訴えた相手は、自分の両親だ。裁判長から、「何の罪で?」と聞かれたゼインは、まっすぐ前を見つめて「僕を産んだ罪」と答えた。中東の貧民窟に生まれたゼインは、両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らないし、法的には社会に存在すらしていない。学校へ通うこともなく、兄妹たちと路上で物を売るなど、朝から晩まで両親に劣悪な労働を強いられていた。唯一の支えだった大切な妹が11歳で強制結婚させられ、怒りと悲しみから家を飛び出したゼインを待っていたのは、さらに過酷な“現実”だった。果たしてゼインの未来は―。

両親を告訴する。僕を産んだ罪で。

©2018MoozFilms

ようやく観ることができたこの作品(本当に福岡で観れるの遅いわ…)。私は愛すべき老舗映画館、KBCシネマでの視聴。

本作の存在を知ったのも、この映画館に置いていたチラシがきっかけなのだが、私はこのキャッチコピーで必ず観ることを決めた。

それが、

「両親を告訴する。僕を産んだ罪で。」

というもの。

非常に強烈なコピーであり、そしてこの背景にどんな物語があるのかと、容易には想像しにくい文章だ。しかも舞台は、日本から文化的にも地理的にも遠いレバノンときた。

しかし、私のこの直感は間違っていなかった。というのも、間違いなく私の人生の中でも傑作の部類に入る映画を観ることができたのだから。

2019年観た映画の中でもトップクラスの傑作

映画の性質上、「面白かった」というのは失礼に当たると思うので、「凄かった」という表現にしたいと思うが、本作の完成度は並ではない。ある種、執念のようなものを感じる。間違いなく傑作だ。

本作の監督、ナディーン・ラバキー監督は舞台でもあるレバノン出身。内戦真っ只中で育ち、自身もレバノンの貧困・難民・差別・風習などの現実を間近で見てきた人間である。

その彼女が切り取りたかったものは、「リアルな現実」だ。そのための手法がまた徹底されており、キャストは役柄と同じような境遇の方ばかりを起用。そして演技させるのではなく、そのキャストが普段生活しているありのままを中心に撮影するという手法に出た。

結果として、この手法は大正解であり、ドキュメンタリーかと思うほどの凄みが本作にはある。(というか、もはや半分ドキュメンタリーだ!)

ただ、その事実を知れば知るほど、我々はの胸は痛くなる。これはフィクションではなく、2019年の今でも起こっている現実なのだと。
だからこそ観る側である、我々の胸を打つ作品になっている。

©2018MoozFilms

もちろん、リアリティだけでなく、作品全体の構成も素晴らしい。冒頭の裁判シーンから始まり、最終的には終盤でそこに回帰していくのだが、本作はゼインが告訴に至るまでの過程を知る物語である。

その過程がとにかく凄い。

徹底的だ。

徹底的に12歳のゼインに現実を見せていく。一見して救いに見えるものは、大人が仕掛けた罠であり、生きることすら困難な現状を背景に、己の弱さをこれでもかと見せつける。

死んでいく主人公の目と、生きるための選択

©2018MoozFilms

上記写真に写っている「ゼイン」は、本作の主人公である。普通は主人公というと、例えばトム・クルーズのように明るく、キラキラと輝く目をしており、人を惹きつけるものだが、本作の主人公ゼインの目は違う。

希望など何もない目、わずか12歳にして人生の苦しみしか知らない目をしている。そしてその目は映画が進むにつれて、より深く、暗い暗い目になっていく。

ゼイン役の彼は、非常に端正な顔立ちをしており、普通であれば色んなお姉さん・お母さん方が放っておかないほどの美少年。愛嬌もあり、可愛らしい男の子だ。

作中でも、ゼインは観客の期待を裏切らない主人公ぶりを見せる。 しかし、ストリートチルドレンのような彼を、作中で相手にする人は少ない。現実は残酷であり、子どもの彼には何も守ることはできない。

その心情を目だけで表現していく、この子役はすさまじいと思った。

両親を悪と断じられるか

訴えられる側の両親には、もちろん課題はたくさんある。しかし、それを一概に悪と断ずることが、あなたにできるだろうか。両親も身分証明書の無い、間違いなく社会的弱者であり、どうしようもない現実にいくつも直面している。

厄介なことは、彼らに罪悪感はあれど、悪意はない。

彼らの判断の根本には、根強い社会構造上の問題が重く伸し掛かっている。その点も意識しざるを得ない作品だ。

あなたはラストに何を感じるか

©2018MoozFilms

それでも、この映画のラストに救いはある。救いはあるが、それはあくまでゼインを取り巻く環境に限った話であり、本作が本当に伝えたい、貧困・差別・風習などといった世界の闇の部分は何も解決していない。

それでも、少しずつ、世界は変えられると思えるラストがあなたを待っていることだろう。

まとめ:淡々と流れていく現実、それを知ることの重要性

「ちょっと泣きたいな」と思っている皆さんには、この映画はお勧めできない。正直なところ、私もそれくらいの気持ちで観にいったのだが、素直に言おう、

一周回って涙は出ない。

胸を打つ現実が唯々あなたを襲う映画になるだろう。叫びが悲痛すぎて涙が出てこない。

しかし、救いはある。それは、主人公ゼインがとにかく良い子であることだ。目が淀んでいたとしても、彼の性根はとにかく真っすぐなのだ。

彼の姿に勇気づけられ、ちょっとでも良いから、世界を変えるお手伝いをしたいと思えるような、そんな心構えになれる作品だ。だから、観終わった後はあまり暗い気持ちにはならないのだが、困ったことに、今度はこの作品のシーンを思い出すと泣きそうになる。

後から感動が追い付いてくるタイプの映画だ。このタイプの映画はなかなか記憶にない。

何にせよ、色々な方に是非観てほしい作品だ。

概要・キャスト

公式URL: http://sonzai-movie.jp/

監督ナディーン・ラバキー

ゼイン・アル・ラフィーア
ヨルダノス・シフェラウ
ボルワティフ・トレジャー・バンコレ
カウサル・アル・ハッダード

2018年製作/125分/PG12/レバノン
原題:Capharnaum
配給:キノフィルムズ

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