満足度:80% 家族を想うとき 感想【ネタバレなし】

満足度:80% 家族を想うとき 感想【ネタバレなし】

満足度:80%【ランク高】

あらすじ

舞台はイギリスのニューカッスル。ターナー家の父リッキーはフランチャイズの宅配ドライバーとして独立。母のアビーはパートタイムの介護福祉士として1日中働いている。家族を幸せにするはずの仕事が家族との時間を奪っていき、高校生の長男セブと小学生の娘のライザ・ジェーンは寂しい想いを募らせてゆく。そんな中、リッキーがある事件に巻き込まれてしまう──

普通の家族が不幸になる、現代の不条理を描いた作品

舞台はイギリス。EU離脱が確定したばかりだが、安定しない社会情勢の中で、このような作品が出てくることは、ある意味当然なのだろう。

本作の登場人物は、どこにでもいる一般的な家族である。宅配ドライバーの父、訪問介護士の母、少し年の離れた兄妹の4人暮らし。

正直に言うと筋書き自体は、よくあるホームドラマと何ら変わりがない。朝から夜遅くまで働き詰めの両親に、 さみしい思いをする妹、反抗する兄。働けど楽にならない暮らしの中で、様々なトラブルが起こる…。日本でも度々そのような設定でドラマがつくられてきただろう。

しかし、本作はそういったドラマとは決定的に何かが違う。もっと、痛烈に胸に刺さってくるドラマだ。

その理由は個人的には一つだと思っている。それは映画の“リアルさ”だ。

人物のリアルさ。

本作には得体のしれない“凄み ” がある。それを与えているのは、俳優・設定・ロケーションなど全てにリアルさがあるからだ。

普通のドラマにありがちな、「一般の夫婦なの美男美女しか出てこない」とか「人情にほだされ、助け舟を出す人がいる」などという都合の良い設定は存在しない。ただの現実を、丁寧に切り取っており、それが映画の醸し出す“凄み”につながっている。

俳優を例に出すと、父親役で主役と言っても良いクリス・ヒッチェンは、なんと20年間配管工として勤め、40代で俳優デビューしたという方。情報があまりにも少ないため、それ以上の情報は出てこなかったのだが、とても俳優歴が浅いとは思えない演技であり、それは自らが似た境遇の労働者として働いた経験で補ったようだ。

宅配ドライバーのスタッフも実際に働く人々をエキストラとして起用するなど、人物描写に関して非常にリアルだ。だからこそ、映像が真実味を帯びる。

設定のリアルさ。

また、本作で何よりも重要なのは設定のリアルさだ。

私が思うに、本作に悪人は登場してないと思っている。父は短期で頭が良いとは言えないが、家族を想う気持ちは本物であるし、母も優しさの塊のような人だ。妹は非常にまじめで良い子過ぎるほど良い子だし、兄はネタバレにつながるので詳細は伏せるが、こいつも基本的に良いやつだ。

つまり、本来であればこの家族が悪くなっていくようには思えないなぁと、観ている人は思う家族なのだ。

それがなぜ映画一本作れるほどに課題があるのかと言うと、ひとえに両親の労働環境にある。

宅配ドライバーの父は「個人事業主」扱いとなり、正確には会社に勤めているわけではない。しかし、実態は雇用形態を盾にした奴隷契約のようなものであり、休むだけで罰金が発生する。さらには、労働するための道具も自前であれば、商品の保証も自前だ。

出張介護士の母に関しても、給料は歩合制で、多くの人を受け持たなければ稼げないという仕組み。

などなど、本作を観ていると、さらに沢山の問題が出てくる。つまり、本作最大の悪は“労働環境”であるということだ。悪役のような雇用主は出てくるが、彼もあくまで会社の規定に従っているだけだ。

社会派作品の名監督として名を馳せるケン・ローチ監督は、自らの引退を撤回してまで、この“労働環境”に対して声を上げるべきだと、この熱量を持った本作を作り上げた。

この根幹がリアルさの根源であり、本作の最重要テーマだ。

現代日本も他人事ではない。私をはじめ、多くの方が、本作の多くの部分に共感できるのではないだろうか。もっと大きな劇場でも公開した方がいいのではと思う作品だ。

邦題と原題の両方が大事

邦題の「家族を想うとき」は、本作のテーマにも沿っており、良い邦題だなと思う反面、本作を観る方は原題の上手さも覚えておいてほしい。

原題は『Sorry we missed you』であるが、これはイギリスの宅配業者が使う不在連絡票に使っている言葉だ。“お届けにうかがいましたがご不在でした” という定型文であり、もちろんその意味でも使われるが、より直接的な表現である “あなた方を見逃していてごめんなさい” という意味合いを覚えておいてほしい。

これがどこにつながるかは、実際に映画を観て見つけていただきたい。

村上春樹を彷彿とさせるラスト

最後に一言だけ言うと、感動の余韻に浸りつつも、ラストは思わず「村上春樹か!」と突っ込みたくなる感じであった。

これが何を意味するか分からない人は、とりあえずそのまま観に行っていただきたいが、わかる方は「そういう感じのラストなのね」と若干の心構えをしていっていただきたい。

そのラストにもこういう意味があるんだな、というのは何となくわかるが、ネタバレになりそうなので控えておこう。

まとめ:幸せを掴むための行為で、幸せが逃げていく

アメリカは世界で最も稼いでいる国だ。しかし、稼いでいることと、正しいということはイコールではない。理想は正しい行いでお金を稼ぐこと。

その雇用形態が世界を席巻していくことで、お金儲けはできるかもしれないし、技術はどんどん進化するかもしれない。しかし「ただ家族と幸せに過ごしたいだけ」という人々の願いが踏みにじられていることは事実だ。

家族は社会の最小構成単位であり、それをないがしろにすることは、人類の社会構成上においても間違っている。

そして、ケン・ローチ監督は本作を公開するにあたり、このような言葉を残している。その言葉をもって本記事を締めくくろう。

「私たちがやらねばならないことはひとつ。耐えられないことがあれば、変えること。今こそ変化の時だ」

概要・キャスト

公式URL: https://longride.jp/kazoku/

監督 ケン・ローチ

クリス・ヒッチェン
デビー・ハニーウッド
リス・ストーン
ケイティ・プロクター
ロス・ブリュースター

2019年製作/100分/G/イギリス・フランス・ベルギー合作
原題:Sorry We Missed You
配給:ロングライド

記事画像参照元: (C)Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

「家族を想うとき」映画感想:オグマの映画レビュー
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